Apple

📰 Appleデザインは変わるのか。Sroujiのハードウェア再編とインダストリアルデザインへの影響を考察

2026年4月、AppleはTim Cookの退任とJohn Ternusの次期CEO就任を発表。それと同時に、長年チップ開発を率いてきたJohny Sroujiがチーフ・ハードウェア・オフィサー(CHO)に昇格しました。そのSroujiが着任直後から動き始めたのが、ハードウェア部門の大規模な組織再編でした。

「Appleのデザインが変わる」と受け取った人もいるかもしれません。結論から言えば、そうでは無く、今回は「デザイン」の中でも、一般的に想像される「見た目」とは別のレイヤーです。

何がどう変わったのか。Appleがデザインに持ってきた哲学の歴史と照らし合わせて整理してみます。

Appleハードウェア再編とデザイン組織の変化——SroujiとSiliconが動かすもの

Appleにある「二つのデザイン」

まず前提として、Apple社内には「デザイン」と呼ばれる組織が二つ存在します。

ひとつはインダストリアルデザイン(ID)。製品の外観・触感・全体的なビジョンを生み出す部門です。Jony Iveが2019年に退社するまで率いていた、あの部門であり、現在はEvan Hankeyが担当しています。

もうひとつがプロダクトデザイン(PD)。IDが生み出したビジョンやコンセプトを、実際に量産・出荷できる製品に「翻訳」する、エンジニアリング寄りの設計部門です。Gurmanの表現を借りれば「概念を、消費者に届けられる実製品に落とし込むチーム」。

今回Sroujiが動かしたのは後者、プロダクトデザイン(PD)です。インダストリアルデザインには、今回の再編は及んでいません。

今回の主な人事異動(Gurman / Bloomberg報道)

  • プロダクトデザイン統括:Kate Bergeron → Shelly Goldberg(Mac担当)+ Dave Pakula(Watch・iPad・AirPods担当)に分割
  • iPhoneのプロダクトデザイン:Richard Dinh(Ternusの元側近)が引き続き担当
  • Kate Bergeron:全デバイスのプロダクト・リライアビリティ(製品信頼性)統括へ移行
  • Matt Costello:新設「Ecosystems Platforms and Partnerships」チームを率いSrouji直属に
  • Kevin Lynch:ロボティクス特別プロジェクトを担当しSrouji直属に

Sroujiの狙い:シリコンと製品を「近づける」

Gurmanはこの再編の目的を「シリコン開発チームと製品開発チームをより緊密に統合すること」と「将来のデバイス開発を加速すること」の二点であると伝えています。

Sroujiはもともと、Apple Siliconの生みの親であり、最近のキーノートセッションでは必ず登場するキーパーソンです。A4チップから始まり、M1・M2・M3・M4シリーズを開発して、Appleチップを世界最高水準に押し上げてきた人物が、今度はチップの外側——ハードウェア全体——を束ねる立場になりました。

チップと製品の距離が縮まるとはどういうことか。たとえばM4チップで何ができるかを設計段階から把握しながら、同時にそれを搭載する筐体の制約を詰めていく——そういう並走が、これまでより早くできるようになる、ということになります。Appleが抱えるSiriの遅延問題も含め、ハードとソフトとシリコンの連携不足が開発遅延の一因として指摘されてきたこともあり、この再編は重要な意味を持ちます。

また、プロダクトデザインをBergeron一人から、製品カテゴリ別の複数人体制に移行したことも注目ポイント。Mac・Apple Watch・iPad・iPhone、それぞれに専任の責任者を置く「分権化」は、一人の判断を待たずに各製品ラインが動けるということになります。誰かがいないと先に進まない、という事態を避けられるわけですね。

Snow Whiteから続く「ビジョナリー統率」モデルとの対比

Appleのデザイン史を振り返ると、一貫して「強力なビジョナリーが全体を統率する」モデルで動いてきました。

1982年、Steve JobsはFrog DesignのHartmut Esslingerに独占契約を結び、Apple製品全体を統一するデザイン言語「Snow White」を生み出しました。ベージュのボディ、細かいラインパターン、ゼロドラフトの筐体——その哲学は一人のデザイナーから発し、7つの製品ラインに注入されたものです。

その後を継いだのがJony Ive。1997年にJobsが復帰してから2019年まで、Iveは一貫してインダストリアルデザインのトップとして「Appleの見た目」を統率し続けました。iMac G3の半透明ボディ、初代iPodの白、iPhoneのガラスと金属——すべてIveのビジョンが貫かれています。

今回の再編は、その系譜とは別のレイヤーで起きていますが、方向性は対照的です。「一人のビジョナリーが全体を統率する」から「カテゴリ別の分権体制で速度を上げる」へ。これはプロダクトデザイン(PD)レベルの話であり、インダストリアルデザイン(ID)の哲学に直接手が入ったわけではありません。ただ、Appleが「カリスマへの依存」から「組織としての実行力」にシフトしようとしているトレンドは、ここにも読み取れます。

インダストリアルデザインはどうなるのか

では、Iveの後継であるEvan Hankeyが率いるインダストリアルデザインチームは、今後どうなるのか。

今回の報道では、IDへの言及はありません。Sroujiが動かしたのはあくまでPDの管轄であり、製品の「見た目のビジョン」を担う部門は今のところ異動などの変更はありません。

ただし、9月1日のTernus CEO就任が本格的な体制変更の起点になる可能性はあります。Ternusはハードウェアエンジニアリング出身で、製品の設計・製造プロセスへの深い理解を持つ人物であり、Snow White時代のJobsがデザインを「外部から注入」した形と違い、Ternusは内側からプロダクトを見てきたという経歴があります。彼がCEOになったとき、IDとPDの関係がどう再定義されるか——そこに次の変化があるとすれば、それはWWDC 2026(6月8日)以降、あるいは9月以降の話になります。

💬 軽めインプレ所感

最初、「Appleのデザインが変わる」ような話に見えたので、確認したけど、今回はそこまでは話は及んでいません。あくまでもエンジニアリング組織の再編であり、見た目のビジョンを担うIDには今のところ手が入っていません。まあ、今回は。

実際、ここ近年のApple製品を見ると、常に競合に大きく遅れるのは納得の上で(Appleが考える)ベストプロダクトを目指していたように思います。
この戦略は、iPhoneやMacだったら有効だけど、スピード感が必要なAIへの対応としてはロスが大きかったのではないでしょうか。AIが加速度的に成長していく過程で、完全に乗り遅れてしまったという現状は否めないところ。ここを一時的にでも打開するためのGemini契約だったと思うけど、今でも実装進捗は早いとは言えない。この問題をより効果的に解決するための戦略が、今回の内部再編のように思います。

さて、次はTernusが9月にCEOになったとき、IDを含めた「デザイン組織全体」にどう手を入れるか——そこが注目点ということになりました。その前にWWDCか。

  1. 1 OpenAI Apple 訴訟——両社のパートナーシップは大丈夫?
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7